大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成9年(オ)941号 判決

東京都新宿区大久保一丁目一四番一五号

上告人

株式会社東松山 カントリークラブ

右代表者代表取締役

伊室一義

右訴訟代理人弁護士

後藤徳司

日浅伸廣

榊原一久

中込一洋

被上告人

右代表者法務大臣

下稲葉耕吉

右指定代理人

大竹聖一

右当事者間の東京高等裁判所平成八年(ネ)第一九三二号不当利得等請求事件について、同裁判所が平成九年一月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人後藤徳司、同日浅伸廣、同榊原一久の上告理由及び同中込一洋の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原審の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうか、又は原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大出峻郎 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男)

(平成九年(オ)第九四一号 上告人 株式会社東松山カントリークラブ)

上告代理人後藤徳司、同日浅伸廣、同榊原一久の上告理由

上告理由第一点

一、過納金の減額更生の法的性質(過納金は不当利得か否か)

原判決は、過納金(正確には誤納金というべきではなかろうか)につき減額更生(国通法二三条、同法五六条、但し、減額するわけではないから用語としてどうかと思う)を経ることを要する旨説示する。ところで、右減額更生の手続であるが、その性質は、過誤による税金であること(税金として無効事由があること)を確認することを根幹とするところであるから、裁量的ではなく、義務的である。となると、減額更生が必要的であるからといって、前記のとおり(事実の)確認作業であるから、減額更生によって過納金の法的性質まで定まるものではない。即ち、本件の争点である(原判決はこの点を解決していないが)過納金が民法上の不当利得金か否かを決定する要素にはならない(原判決も減額更生後の過納金は「法律上の原因を欠く性質のものであること」を認めているから、減額更生後の過納金の性質は原判決に従っても、少なくとも不当利得金と考えるべきであるが、減額更生が前記のとおり確認作業であるとすると、減額更生前の過納金も不当利得金と考える余地がある。もっとも、原判決の説示によると、減額更生によって、過納金となる旨言うようであるが、本件の如く減額更生によって過納金とされた金員が不当利得であるか否かはやはり問題である。少なくとも、減額更生後の過納金は不当利得と考えるべきである。それに、減額更生によって、過納金や不当利得金になるとすると、国通法二三条の申請や同法五六条の還付の手段が為されない場合、特に損失を受けた第三者は、どうやって還付を請求することになるのであろうか)。言い換えれば、右説示をもって過納金が特別の金員であることを意味するものでもないし、過納金が民法上の不当利得でないと説いているわけでもない(したがって、争点との対比においてこの前置は、何のためのものか解らない。後記のとおり、過納金ということだけから、当然、国税債権の債務者に限り、還付すべきという論理にもならない。)。

二、過納金と民法上の不当利得金(民法上の不当利得返還請求権の有無)。

1、過納金の確認は一次的には債務署長が行う(訴訟形態はとともかく最終的には、裁判所が確認する)。民法上の不当利得の確認は専ら裁判所が行う。しかし、その確認はいずれも、法律上の取得原因の存否であって、その確認には何等の相違もない。ただ、確認者が異なるというだけである(過納金以外の行政機関による不当利得金も更生決定とはいわないが類似の確認手続が行われたうえ返還されるのも同様である。例えば違法な寄付金の返還)。したがって、確認者が異なるというだけで、過納金(その余の行政機関による不当利得金も)と民法上の不当利得金は性質が異なるということはできない。けだし、前記のとおり、両者とも法律上の原因のない取得金であることに相違はなく、その余に特段の差異があるわけではないからである(但し、過納金は国が取得者であるとの点はさて置く)。そうなると、過納金というか民法上の不当利得金と言うかは用語の相違にしか過ぎず、過納金という特別の不当利得とは性質の異なる金員は無いのであるから、大原則に従って、民法上の不当利得金というか、仮に百歩譲ったとしても、民法上の不当利得金類似のものと考えるべきこととなる。

2、ところで、斯様な不当利得者が国であることから、民法上の不当利得金とは別途の性質のもの(例えば、公法上の不当利得金という民法以外の特殊な不当利得金。もっとも、公法上の不当利得と言っても、民法上の不当利得と要件効果を異にするとは思われないが)と考えるべき余地があるのであろうか。前記のとおり、過納金と言っても、民法上の不当利得金とその性質において何等の差異があるわけではないこと、結局、国が取得し得る金員ではないからち、過納金には行政法上の特殊な意味付けや価値もないこと(単に違法な金員)を総合すると国だからといって、大原則を曲げて特殊な意味付けをしたり、意味あるかの如く解して、民法上の不当利得金とは異なる不当利得金であると解する必要性も必然性もない(その意味で、公法上の不当利得金となる用語は、単なる用語の問題に過ぎない。ただ、還付について特段の定めをすることは許されることは別途の問題である。)。

3、そして、過納金が斯様な意味での不当利得であるとすると、一方損失があることも当然であるが、その損失者は実質上(その余の特別の法律があるわけではないから、民法上)の損失者であることも当然であって、それ以外に損失者は存在しない(但し、誰に返還されるべきかはしばらくさて置く)。即ち、本件でいえば、損失者は上告人や訴外茂(相続人を含む)であって、それ以外の何者でもなく惠六(相続人を含む)は損失者としての名義人では有り得ても損失者ではない。しかる時、過納金が民法上(類似)の不当利得金である以上、損失者がその不当利得金の返還を国に対し、請求する権利(不当利得返還請求権として)があることは、国のその余(納税以外の)の原因による不当利得金の返還の場合と相違点はない〔但し、その訴訟形態には国通法五六条は更生決定の相手方を特定していないので更生決定をすべく職権(だから、国は上告人に対し、申立の取下を要求したと思われる)の発動を求めたり、更生決定が却下されたりした場合は、その取消を求める方法もあるのかもしれない〕。即ち、過納金の場合であっても、実質不当利得として損失者は国に対し、不当利得返還請求権を有するのである(そうでなければ、利害関係のない納税名義人が更生の請求もしないし、税務署長が職権の発動もしない場合に損失者はその回収ができなくなって不合理である)。そうでなければ、国通法五六条が職権還付まで命じて、いかなる場合にも国は、不当な利得を得てはならないこととしている姿勢と整合しない。したがって、本件における論点は上告人に不当利得返還請求権があるか否かというよりも、むしろ、国の本件還付によって国が免責されるか否かの点である。

三、過納金(不当利得金)の返還について

1、前記のとおり、過納金は民法上の不当利得金(少なくとも類似の)であるとすると。原則としてその返還にも民法の規定が適用(類推通用)されるべきである(民法四七八条等大量事務処理の場合の保護規定についても同様)。まして、国通法上、特に職権還付(国通法五六条)を行うべき本件のような場合の還付の受領権者(相手方)や還付にかかる免責に関する特別の法律の定めはない。即ち、民法の原則を排除すべき法律上の根拠は何等無いのである(にも拘わらず、特別の免責を認めることは、この点法律の定めなくして国民の権利を侵害することとなるので、憲法二九条に違反する)。

2、それでは、民法上の原則を排除すべき実務上の必要性があるであろうか。原判決は国の大量事務処理を理由とする。しかし、大量事務処理による保護の法大系は、事務に特定性なく大量であることと事実が不明であることを前提とし、且つ、その不明であったことに故意過失が無いことが条件である。加えて、国に故意、過失(最判は裁判官の賠償責任につき、恣意的故意のみに限定するので、百歩譲っても故意)がある場合、国が保護される旨の法律も無い。となると、本件の如く、国が本件過納金(不当利得金)の損失者を知っている場合(知っているばかりか、惠六はこれを受領すべき権利が無いことを訴訟上自白している。仮に納税名義人が受領を拒否している場合も考慮すべき点である。)や重過失ある場合には、大量事務処理における保護の法大系になじまないことになるばかりか、事務処理の対象は訴訟外においては、原告の税務署長に対する申立(但し、取下済)により、訴訟上も本件一件に特定され、本件はもはや大量事務処理にあたらない。まして、訴訟係属中となれば、事件の特定性は顕著であって何をかいわんやである(もはや訴訟の当事者となっていることがわずらわしいというだけの理由しかない)。即ち、過納金の返還につき、民法上の大原則(特に、民法四七八条)を排除する実務上の必要性も無い。そうなると、過納金の還付についても、民法四七八条が適用(類推適用)されることとなると言わざるを得ない。ところが、原判決は、以下のとおり、民法四七八条の適用(類推適用)を否認するようである(その点には触れていないので、明示的ではないが)。その結果、故意の場合の民法四七八条の適用(類推適用)除外も認めない。

3、即ち、原判決は、過納金を還付すべき者は国税債権の債務者でなければならず(債務者に限られる)、相続人、譲受人、差押債権者以外の第三者であってはならない(覇束されている)旨判示する。そして、その理由として、カッコ書中、国に「現実の出捐者や損失者を調査すべき義務が無い」(民法四七八条も特に支払者の調査義務を前提としているわけではない)ことを掲げている。しかし、調査義務が無いことと誰に支払うべきかという問題(誰が請求権者か、誰に還付すれば免責されるか)は全く別途の事柄である。即ち、調査義務が無いからといって、常に(本件では故意の場合に)国税債権の債務者に支払うべきである(以外の者には支払ってはならない)ということにはならないし(実体上の損失者に還付された場合に、本件の如き納税名義人が二重に国に対し還付を請求することはできない。と同様に、納税名義人が受領を拒否している場合にまで、納税名義人に支払うべきであるということにはならない。)、また、斯様な法律の規定もないのであるから、そのように解すべき必然性もない。還付受領権者を法律が限定したり、国に義務づけていない以上、問題は「誰に還付しなければならないか」ではなく、「いかなる還付が免責されるか」であって、原判決はその点問題(争点)把握を間違っている。即ち、還付に関する法も、国税債権の債務者に還付すべきことを原則とする(免責される)旨定めていると解すべきであるに過ぎない(したがって、これに関する法は、民法四七八条と同様外形保護規定である)。仮に、百歩譲るとしても国通法二三条はともかく(申請権に基づく請求)、国通法五六条は斯様に解すべきである(本件は、国通法五六条に関する場合である)。その証左として、原判決は国税債権の債務者以外の相続人、譲受人、差押債権者に対する還付を認め、これ等の者を国税債権の債務者の範疇(原判決はこの点「本来の納税者」と表示するが、これ等の者は本来の納税者ではなく明らかに間違いである。)として考えているが、むしろ、右三名の者は本来の納税者以外の実体上の不当利得の権利者であることが明確に解る場合(調査も不要)であって、斯様な場合、国税債権の債務者という原則に反して、実体上の権利者(不当利得の損失者)に還付することを認める(免責される)趣旨のものと考えるべきである。けだし、大量事務処理の要請に添う必要のない場合であるからである。ちなみに、斯様な法解釈は、国通法第五六条関係還付に関する左記通達によっても裏付けられる。即ち、国税債権の債務者に限り還付すべきであるならば斯様な通達を置く必要はない。むしろ、実質上の権利者に還付することを前提に、国税債権の債務者との関係で疑義ないよう右通達は、これを解決したものと解される。

〈1〉 3(第二次納税義務者への納付)においても、実体上の権利者である譲渡担保権者(明確な場合)の定めがあり、且つ、数人ある場合の割合まで定めて実体を尊重していること。元来、譲渡担保権者など、後記譲受人と同様に外部的問題である。

〈2〉 4(国税の保証人または第三者の納付にかかる過誤納金の還付)において、実体上の不当利得返還権者である保証人への一部還付を定めて、実体上の権利者を尊重していること。

〈3〉 6(相続人への還付)において遺産分割協議が明確である場合や還付金等について遺産の分割がされている場合(勿論調査不要)は、実体上の権利者に支払うことにより実体上の権利を尊重すること。

〈4〉 7(無能力者への還付)において、法定代理人が実体上明確であるという実体上の関係を尊重して還付をすべきこと。

〈5〉 8(破産者等への還付)において、実体上の権利者を尊重(無視できない)して還付すべきこと。

〈6〉 9(還付金の譲受人への還付)において、国税債権の債務者ではなく、実体上の譲受人に還付すべきこと。注意すべきことは、譲渡受の関係は国税債権の債務者と国との関係外の法律関係であって、本来、国の預かり知らぬところであるにも拘わらず、斯様な関係も尊重されているということである。

本件においては、訴訟上、惠六自身が還付を受ける権利はなく、訴外茂や上告人が損失者であることを認めているのであるから、その点に疑義がなく上告人は譲受人に準ずる地位にあるとも評価し得る。

その他、実体上の権利者が明確(調査の必要なく)であり、且つ、税務署長がこれを知っている場合、右還付に関する通達でさえ実体上の権利を尊重していることに相違ないから、実体上の権利を無視して、国税債権の債務者にのみ支払うべきこととする法解釈は何処にもその根拠がない(納税名義人の受領を拒否している場合が参考となる。また、大量事務処理の場合にも民法四七八条が適用されるのであるから、民法四七八条不適用の根拠として大量事務処理を理由とすることは論理的に矛盾している。債権者代位権者が譲受人に準ずるとの説もある。そうなると、非訟事件手続法七六条二項と相まって、債権者代位権者である譲受人に類似する地位にある上告人に還付されるべきこととなる。)。むしろ、右通達を総合してみても、国税債権の債務者以外の実体上の権利者に配慮し、尊重していることは明らかであるから、同様実体上の権利者である不当利得請求権者も尊重されるべきである。即ち、原判決の不当は国税債権の債務者に還付すれば原則的に免責されるというのではなく、法律の規定も無いのに国税債権の債務者に限定して還付すべきである(それ以外は還付の効力は認められない。というのであれば、国通法から見ると、通達は違法ということになりはしないか)との前提に立った点に全ての原因がある。そして、原判決の論旨は、本件の場合、その限られた国税債権の債務者(惠六)に返還したのであるから、その余の点を判断するまでもなく正当であるというに過ぎない。原判決が判示する「国が知っている場合」の判断などその余の部類に属し、する必要もない「つけたし」である。即ち、何故、還付されるべき者が国税債権の債務者に限られるかという点は答えてもいないし、理由の説示もないが、その点こそ判断の必要な争点である。言い換えるならば、過納金だから、国税債権の債務者に限り支払うべきという論理であるが、何故過納金だからそうすべきであるのか明確にしない以上論理に飛躍があると言わなければならない。

4、結論

以上の点を総合すると原判決には

(1) 法令(国通法二三条、同法五六条および民法の不当利得や同法四七八条等)の解釈を誤り、且つ、判断逸脱、審理不盡、理由不備の違法がある。

(2) 明示黙示の法律の規定も無いのに、本件還付を有効として上告人の不当利得請求権を侵害することは憲法二九条に違反する。

(3) 原判決は結局、不当利得の成立を否認していると思われる(明確ではないが)。しかし、少なくとも減額更生後の過納金は不当利得であるから、原判決は国の不当利得を認めた最判昭和四九年九月二六日民集二八巻六号一二四三頁に違反する。

なお、以上の上告理由第一点は追記一「原判決に対する批判」によって補充する。

上告理由第二点

一、当事者双方の事情

国の本件還付につき、原告には左記のとおり諸般の事情がある。

〈1〉 国は、訴訟外では勿論のこと、訴訟上、本件還付金が上告人や訴外茂によって出捐されたものであることを知っていること。

〈2〉 国は惠六が右還付金を受領すべき権利が無く、且つ、受領権限がないことを認めていることを訴訟内外において知っていること。

〈3〉 訴訟係属中であること(上告人の期待的利益を侵害するものであること)。

〈4〉 本件訴訟は債権者代位的に基づくものも含まれていること。

〈5〉 上告人は国との合意により還付の申立を取下げていること。

これに対し、国の本件還付には左記の事由がある。

(1) 本件還付は大量事務処理でもなく、また、調査も必要無いこと。

(2) したがって、早急に解決すべき必要性が無いこと。

(3) 強いて必要性というならば、訴訟係属というわずらわしさから逃れるための心理的なものであること(客観的必要性ではない)。

(4) 非訟事件手続法七六条二項は債権者代位訴訟における債務者の権利を制限しているのにその精神を無視して(債務者のできない行為を被告国が行うことによって実質的に債権者の訴訟上の権利を侵害すること)上告人の期待利益を必要性もなく損なう所為を強行したこと(本件還付は惠六の税務署長に対する還付の申立によるものであるが、そうだとすると、右七六条二項に違反する債務者の行為に応じた還付でもあるので、債務者と意見を通じ、共同して右七六条二項に違反しているとも評価し得る。おそらく、上告人の税務署長に対する還付申立の前記取下がなければ本件還付は、実行されなかったと思われる。したがって、その点まで右共同行為に含めて考えるべきである。)。

(5) 民の幸を願うならば(美学があるならば)、必要もないのに付けを民に廻すが如き所為は名君の採らざるところであること。

以上、上告人側の事情と国の事情を比較する時、本件還付につき国の必要性は皆無である(勇み足)。即ち、国だからといって許されるべきではない。

二、結論

したがって、本件還付は非訴訟事件手続法七六条二項に違反し、仮に百歩譲ったとしても、著しく衡平を失し信義則違反、権利濫用であって、許されるべきではなく、その点、原判決には法令の解釈を誤った違法がある。

なお、事業理由第二点は追記「大局的見地」をもって補充する。

追記一、原判決に対する批判

1、原判決は、過納金の還付に当たっては、減額更生を必要とすると判示する。しかし、そうだからといって、本件の争点である過納金が不当利得に該当しないというのか、それとも該当すると考えているのかさっぱり解らない(何のための前置の判断かさっぱり解らない)。過納金が不当利得に当たらないとするならば、請求原因が認められないのであるから、それ以上、無駄な批判を続ける必要はない。

2、とは言うものの、不当利得に当たらないと考えているのかと不利に考えて読んでいくと、過納金とは法律上の原因を欠くものとの不当利得の要件に添っている点は維持されている。しかし、それでも不当利得との表現は見当たらない(余程不当利得と言いたくないのであろう)。といって、不当利得ではなく、特殊な性質の金員であると言っているわけではない。さっぱり解らない。

3、そのうち、大量事務処理でもなく(訴訟によって特定されている)真の損失者を国が調査する必要もない本件であるにも拘わらず、大量事務処理を理由とし、且つ、国の調査義務を云々して、過納金は国税債権の債務者に限り還付すべき旨判示する。しかし、それは不当利得であってもそうすべきというのか、その理由はさっぱり解らない。不当利得でないというならばその点だけで棄却されるべき筈のところ、さらに、判断を続ける意味が解らない。理由も判示されていないので、読む方にとっては「何日の間に国税債権の債務者に限られることになってしまったのだろう」との疑問が当然払拭されない。

4、その内に国が真の損失者を知っていたとしても、国税債権の債務者に限り支払うべきであると判示するすることとなっている。しかし、本件の争点は通常は国税債権の債務者に還付すれば免責されるが、本件の如き国が知り(惠六も受領権限が無いことを認めている。例えば、惠六が受領を拒否した場合のことも考えて見るべきである。)、且つ、国の調査も必要でなく、しかも訴訟係属中という特段の事由がある場合に斯様な原則論が適用されるかという点にある(特段の事情も認められる)。そうなると、原判決は、その点の法令の解釈を示さなければ争点を判断したことにはならない。さっぱり訳も解らず、納得できるものではない。要は、さっぱり解らないづくしの判決である。結局、原判決は何を判断すべきかが解っていないのではなかろうか。その証左として、原判決は不当利得返還請求権が「控訴人は存在することを前提とするが」と言って、「存在しないことを前提」とするかの如く判示するか(そうであれば、その時点が棄却すれば足りる)、原判決の論旨は還付によって不当利得返還請求権(実質的には不当利得である過納金の還付義務が)が消滅したと説示したとしか読みようがない。しかる時、正確には不当利得返還請求権は還付により、消滅したと判示しなければならないところ、不当利得返還請求権という用語を肯定的に使いたくないあまり、斯様な論理矛盾の用語をあえて選択したとしか思われない。即ち、用語選択の不正確さからも原判決の歪みが解る。纏めてみると、原判決は、過納金は、国税債権の債務者に限り還付すべきである(「足りる」というのではない。「足りる」というのであれば、「足らざる特段の事由」の余地があるからである)。したがって、本件還付は、右のとおり限られた国税債権の債務者に還付したのであるから、それで充分であって国の故意、重過失(特段に事情)は問題とする余地がないという誠に単純なものであって、その余の判断部分はこの結論に至る論理的前提ともならない不要なものである(不要であるから右結論に至までの理由を説示したことにはならない)。しかし、何故、「国税債権の債務者に限って還付すべき」か、理由がないから全く解らず、いわゆる理由の無い違法な判断である。

追記二、大局的見地

1、例えば、銀行や保険会社が大量事務処理や調査義務の必要もないのに、これ有ることとして、名義人に不当利得金を返還した場合、故意、過失があるから、法律上保護される余地は皆無であることは当然であるが、横暴な所為として世論によって非難されることは絶対に疑う余地もない(その点に信義則や権利濫用の根幹がある。不当利得の返還に当たって銀行内部でいかに確認され、手段が採られるか関係がない。)。

2、ところが、当事者が国であるからと言って、世論の非難は受けないであろうか(本件がマスコミに出された場合)。より以上に国の横暴を非難する声が上がると思われる。まして、上告人が国の要請によって請求を一旦取下げているとなればである。けだし、大量の事務処理でもないし、国は調査をする必要もないから、国に強いて還付する利益は無く、国に味方する信義則が無いと考えるのが通常だからである。即ち、国だから許される範疇に無い。それを仮に国が国だから許されると考えているとするなば、その意識は正に行政改革の対象となるべき点である。ということは、将来に亘って、斯様な点は改革されねばならない。これが、大局観であり、明示の法文があるならばともかく法文のない解釈に任された問題につき、公開条例と同様にその他各省の反省と同様に斯様な歴史の流れを読むことも最高裁判所の責務である。

追記三、上告理由第一点および第二点の補充

国通法二三条は「納税申告書を提出した者」に対し、与えられた請求権であるから、当該請求に対し、更生決定を経て請求権者(納税申告書を提出した者)に限って、過納金が還付されるのは当然のことであって、国はそれ以上に出捐者等を調査して現実の出捐者に還付する必要がないことも当然である(申立に対する応答的性質)。しかし、国通法五六条は、斯様な請求に基づく還付と同様に考える必然性は無い。けだし、職権による一方的還付であって、法律上請求権者も還付先も特定されているわけではないから、還付先だけを分離して国税債権の債務者に限られると解すべき必然性はなく、一般の不当利得による還付(返還)の法理を曲げるべき論拠も無いからである(応答的性質は無い)。即ち、国通法二三条と同法五六条を同じレベルで論すべきではない。仮に百歩譲って、原判決の趣旨が「限られる」というのではなく、国税債権の債務者に還付すれば「足りる」というものであるとすると、国に民法四七八条の故意・過失がある場合は免責されないという争点がどうしても避けられないところである。原判決のこの点に関する判断は、これに添う判示部分とは言えない。そして、国通法五六条に応答的性質が無いとすると、非訟事件手続法七六条二項の関係で国の要請で上告人が税務署長に対する還付の申立を取下させたことが問題である。けだし、国としては、税務署長に対する還付の申立が上告人と惠六と二件競合していると、職権の発動でやりにくい面があることから、右取下を要請したと推測されるが、そうなると国の本件還付は残された惠六の右申立に応答した要素を認めざるを得ないところであり、明らかに右七六条二項に反する対応を上告人に対し、国が採ったということになるからである。

なお、国通法五六条は税務署長等に還付の義務を定めたものであって、斯様な義務があるからと言って、不当利得の損失者が国に対し、不当利得の返還請求権が無いということにはならない。

追記四、上告理由第一点の補充

国通法五七条は「…還付者がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、…還付に代えて還付金等をその国税に充当しなければならない。…」と定めている。ところで、原判決の前記判示によると、論理必然的にこの充当する相手方は、過納金を納付した国税債権の債務者に限られることとなってしまう。しかし、右五七条は「還付すべき者」を限定しているわけでもないし(勿論同法五六条も限定していない)「納付すべき国税がある者」を本来の納税者(納税名義人)に限定しているわけでもない。即ち、本件の如き場合、上告人や訴外茂に本件過納金を還付するに当たり、同人等に納付すべき国税がある場合、五七条の充当が為されることとなる(前記通達の還付の場合も同様である)。となると、原判決が還付の相手方を国税債権の債務者に限定していることは、明らかに国通法五七条に反するところでもある。即ち、同法五七条をもってしても同法五六条が民法上の不当利得の成立を否定するものではなく(単に、職権還付義務を定めたものに過ぎない)、本件還付につき同様に民法四七八条の適用が排斥されるいわれもない。となると、本件過納金について、国が惠六が損失者ではなく惠六自信も還付受領権が無いことを自認していることを知っており(仮に、百歩譲っても、知らなかったことに故意に近い重過失である)、且つ、損失者は訴外茂または上告人であることを知っている場合は、本件還付によって、国は免責されない(民法四七八条以外に国通法上免責を定める規定はない。)。

以上

(平成九年(オ)第九四一号 上告人 株式会社東松山カントリークラブ)

上告代理人中込一洋の上告理由

一 原判決には、理由不備の違法があり、絶対的上告理由(民事訴訟法第三九五条一項六号)が認められる。

二 原判決は、「東松山税務署長が惠六に対して過納金を還付したのは、控訴人が被控訴人に対して本訴を提起した後においてのことであり、この場合において東松山税務署長において前記譲渡所得税が控訴人が支払った売買代金をもって納付されたものであることを知り、又は重大な過失により知らなかった」という事実を認めている(一三頁)

国の指定代理人において前記譲渡所得税が控除人が支払った売買代金をもって納付されたものであることを知っていた以上、東松山税務署長において前記譲渡所得税が控訴人が支払った売買代金をもって納付されるものであることを知っていたことは当然であるから、「又は重大な過失により知らなかった」という部分は蛇足と思われる。

但し、右部分を除き、東松山税務署長において前記譲渡所得税が控訴人が支払った売買代金をもって納付されたものであることを知っていたという認定部分は、本件の事案を正確に把握しているものと評価できる。

三 ところが、原判決は、前記二のように事案を把握したにもかかわらず、「東松山税務署長が惠六に対して過納金を還付することを妨げられ、又は右過納金の還付の効力が左右されるものでないことは、前示の国税の還付の性質及び手続に照らして明らかで」あると判示している(一三頁)。

当職は、右の説示は誤りであると確信している。後藤徳司弁護士の上告理由書が存するにもかかわらず敢えて屋上屋を重ねるが如き上告理由書を提出するに至ったのも、この点を強調したいがためである。

すなわち、右判示の結論は、東松山税務署長は、譲渡所得税が上告人(控訴人)が支払った売買代金をもって納付されたものであることを知っていたとしても、本来の納税者である惠六に還付すべきであるというものであり、その理由は「前示の国税の還付の性質及び手続」に求められている。

しかし、原判決のどの部分をみても、東松山税務署長において譲渡所得税が控訴人が支払った売買代金をもって納付されたものであることを知っていた場合に妥当する理由は示されていない。そうである以上、原判決には、理由不備の違法がある。

四 前記三で引用した「前示の国税の還付の性質及び手続」に該当しうるものを敢えて指摘するならば、原判決の「右過納金を還付すべき相手方については、第三者の出捐によって国税が納付され、又は第三者がその名において国税を納付した場合(国税通則法四一条一項)であっても、これらの第三者は国税債権の債務者ではないのであるから、右納付にかかる過納金は、当該納付の出捐者又は納付した第三者に対してではなく、本来の納税者(相続、譲渡、差押えがあったときは、相続人、譲渡人又は差押債権者)に対して還付すべきものであると解するのが相当である(この場合において、所轄税務署長が当該納付に係る現実の出捐者やそれによって最終的に損失を被ることになる者を調査して、その者に対して過納金を還付すべきものとすることは、大量の還付事務の適正かつ画一的な処理の要請に適う所以ではない。)。」という判示(一二頁)が一応考えられる。

しかし、右判示は、本件の事案の本質であるところの東松山税務署長において譲渡所得税が控訴人が支払った売買代金をもって納付されたものであることを知っていたという事実を踏まえてのものではなく、一般論を示したものにすぎない。そして、右一般論の実質的な理由は「所轄税務署長が当該納付に係る現実の出捐者やそれによって最終的に損失を被ることになる者を調査して、その者に対して過納金を還付すべきものとすることは、大量の還付事務の適正かつ画一的な処理の要請に適う所以ではない。」という点にある。

しかし、本件の如く本訴が提起され、当該納付に係る現実の出捐者が訴訟上明らかになっている場合には、国の指定代理人が裁判上必要な個別的な措置をとる状況にあるのであって、税務署の通常の還付手続とは全く異質な手続に既になっていたのである。このような個別的手続が採られていた以上、「大量の還付事務の適正かつ画一的な処理の要請」が働かないことは当然である。

そもそも、無権代理行為をした茂の相続人らはもとより、その名義人である惠六までもが裁判所において「譲渡所得税が控訴人が支払った売買代金をもって納付されたものであること」を認めており、それを国の指定代理人が認識していたのであるから、もはや東松山税務署において調査する必要は全くないのであって、現実の出捐者に対して過納金を還付することには何らの困難も存在しない。その意味においても、前記判示は、前記二の事案の特質に対する理由とはなり得ていない。

したがって、前記一般論の実質的な理由が本件には当てはまらないのであって、やはり原判決には理由不備の違法があると言わざるを得ない。

五 そもそも民法の不当利得の規定は、私法関係のみならず公法関係にも共通する一般原理としてとらえるべきである。

この点につき、内閣法制局は、「雇用者が被用者の賃金から徴収する源泉所得税を超過徴収して納付した場合、国税通則法第五六条に基づいてその過誤納金を還付する相手方は、雇用者であるか被用者であるか。」という質問に対し、「超過徴収の過誤納金を還付する相手方は雇用者である。」という意見(昭和三七・七・三一発九号)を示した際の理由として、「国税通則法第五六条は、過誤納金の還付の相手方は特に明文で規定していないが、その法律的性格は一種の不当利得返還請求であるから、還付の相手方については、民法上の不当利得制度の場合と同様に考えるべきであろう。ところで、この不当利得の返還をうける者は不当利得のために損失をこうむった者であるから、国税の過誤納金についても還付をうける者は過誤納金を生じたことによって損失をこうむった者、と解すべきである。」と明言している(志場喜徳郎外編著「平成四年改定国税通則法精解」五一八頁参照)。

また、御庁においても、雑所得として課税の対象とされた利息損害金債権が後日貸倒れにより回収不能となった場合の既徴収税額について、課税処分の違法・無効を前提とすることなく、法律上の原因を欠く利得としてこれを納税者に返還すべき旨を判示したことがある(最高裁昭和四九年三月八日第二小法廷判決民集二八巻二号一八六頁)。右判決は、徴収税額の返還の根拠として実定法規を直接的には示していないけれども、民法の不当利得の規定を私法関係のみならず公法関係にも共通する一般原理としてとらえたものと理解されている(石田裕康「過納税金返還請求についての適用法規と消滅時効の起算日」ジュリスト六〇四号一三七頁参照)。

この大原則を率直に認めるならば、「東松山税務署長は、譲渡所得税が上告人(控訴人)が支払った売買代金をもって納付されたものであることを知っていたとしても、本来の納税者である惠六に還付すべきである」という結論を導き得る理由はあり得ない。

すなわち、原判決に理由不備の違法があるのは、右結論を採用したことの必然的な帰結であって、これを正すためには、右結論を変更し、上告人の請求を認容する外にない。

六 よって、原判決は違法であり、破棄されるべきである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例